小学1年生のたし算・ひき算では、指を使って計算する児童の姿が見られます。
指を使って計算することを好ましく思わない先生もいるでしょう。指に頼らず、素早く正確に計算できるようになることは、算数の大切な学習目標です。
ただし、指を使うという行為には、単なる計算の補助以上の意味があると考えられます。
数の概念を獲得している途中の児童にとって、指はどのような役割を持っているのか。指を使う計算と暗算は、どのようにつながっているのか。
児童の思考と、その発達過程に関する研究から考えてみます。
指を使うとは、どういうことか
例えば、「5+3」という計算を考えてみます。
ある児童は、指を5本出し、さらに3本出して、全部を1から数え直すかもしれません。
別の児童は、5を頭の中に置き、指を使って「6、7、8」と3つ数え進めるかもしれません。
どちらも指を使った計算ですが、数の扱い方は異なります。
前者は、二つの数量を合わせて数えています。後者は、5を一つのまとまりとして捉え、そこから3つ増えることを考えています。
指は、数量を目に見える形で表すだけでなく、計算の途中経過を記録する役割も担っています。
そもそも、「5」という数そのものは目に見えません。リンゴ5個も、鉛筆5本も、指5本も、具体的なものは異なりますが、共通する数量を表しています。
指を使えば、その目に見えない数量を、身体を通して表現し、操作できます。
このように身体的な経験と認知の関係を考える研究領域には、「身体化された認知(Embodied Cognition)」という考え方があります。この考え方は、後で紹介するFreyらの論文でも研究の背景として取り上げられています。
指を使うこと自体が数の抽象化なのではありません。具体的な数量を操作する経験が、やがて頭の中で数を扱うための足場になり得るということです。
指を使う計算から、暗算への移行
「8+5」を考えてみましょう。
最初は8から指で5つ数え進めていた児童が、やがて頭の中だけで「9、10、11、12、13」と数えられるようになることがあります。
この場合、指を使わなくなっても、計算の考え方そのものは大きく変わっていません。身体で行っていた操作を、頭の中で行えるようになったと捉えられます。
一方、8に2を足して10を作り、残りの3を足して13を求める児童もいます。
こちらは、数を一つずつ数える方法から、数の分解や10のまとまりを利用する方法へと変化しています。
また、「8+5=13」という計算結果を記憶し、すぐに答えられる場合もあるでしょう。
つまり、指を使わずに計算できる児童であっても、その内側で行われている思考は同じではありません。
具体的な操作を頭の中で再現すること、数の関係を使って計算すること、計算結果を記憶から取り出すこと。これらはいずれも暗算につながる働きですが、同一のものではありません。
指を使わなくなったという外見上の変化だけでは、どのような能力が育ったのかまでは判断できないのです。
研究から見える、指を使うことの意味
指を使った計算については、興味深い研究結果があります。
指を使った学習を取り入れた群で、後の計算成績が高かった
2024年にFreyらが発表した研究では、ドイツの小学1年生を対象に、指を使った数の学習を取り入れる介入を行い、242人の結果を分析しました。
指を使った練習を授業に組み込んだ119人と、通常の授業を受けた123人を比較したところ、練習を取り入れた児童の方が、1年生終了時のひき算と、9か月後のたし算で、通常授業の群より高い成績を示しました。
ただし、1年生終了時のたし算と、9か月後のひき算では、両群の差は統計的に明確ではありませんでした。
指を使うことが、その場の計算を助けるだけでなく、後の計算能力にもよい影響を与える可能性を示す結果です。
なお、この研究が検証したのは、指を使った練習を計画的に取り入れることの効果です。日常の計算で指の使用を認めるだけで、同じ効果が得られると証明したものではありません。
介入は全18回、各25〜30分。無作為割付ではなく、背景を対応させた群の比較です。
Frey et al. (2024), Table 2をもとにFlowz作図。原著はCC BY 4.0。原表の一部の数値を選び、日本語の図に再構成しました。原著論文。
指を使わなくなった児童の多くは、以前は使っていた
2026年に掲載されたKrengerとThevenotの研究では、スイスのフランス語圏の子ども192人を対象に追跡を始め、4歳半から7歳半にかけて指を使った計算の変化を調べました。
ここで興味深いのは、6歳半の時点で指を使わずに計算していた児童の多くが、以前は指を使っていたという結果です。
また、7歳半の時点では、以前は指を使っていたものの、すでに使わなくなった児童の方が、指を使い続けている児童よりも、たし算の成績が高かったという結果でした。
この結果だけで、指を使った経験が後の計算能力を高めたと断定することはできません。また、対象は主に中程度から比較的高い社会経済的背景の子どもであり、日本の児童や授業にそのまま当てはまるとは限りません。
しかし、重要なのは、現在指を使っていない児童の多くも、かつては指を使って計算していたという事実です。
指を使うことが、暗算へ移行するまでの一時的な手段として機能していた可能性があります。
指を使う児童と使わない児童を比較するだけでは見えなかった、計算方法の発達過程がここに表れています。
小学1年生では認め、2年生では認めないという考え方
計算に習熟するにつれて、指に頼らず答えを求められるようになることは重要です。
一つずつ数える方法だけでは、扱う数が大きくなるにつれて効率が悪くなります。数の分解・合成や10のまとまりを利用した計算を身につけさせたいという指導には、合理的な理由があります。
一方で、小学1年生なら指を使ってもよいが、2年生になったら使わないようにする、という一律の区切りには慎重であるべきでしょう。
文部科学省の学習指導要領解説では、第2学年でも、必要に応じて具体物や図などを用い、数の表し方や計算の仕方を考察する力を育てることが示されています(算数編18ページ、図3)。
学年が変われば学習する内容は進みますが、児童の数の理解が一斉に同じ段階へ移るわけではありません。
ここで区別したいのは、次の二つです。
- 指を使わせないこと
- 指を使わなくても計算できる力を育てること
両者は同じではありません。
指を使わないように指導することが、特定の計算方法を身につけるために有効な場面もあるでしょう。しかし、指の使用を止めるだけで、数の分解やまとまりを利用する思考が形成されるとは限りません。
指を使って何を考えているのか。その計算方法から、どのような考え方へ進もうとしているのか。
児童の理解を捉えるには、指を使っているかどうかだけでなく、計算の中身を見る必要があります。
あとがき|指を使わなくなるとは、何が変わることなのか
指を使っていた児童が、やがて指を使わずに計算できるようになります。
それは、具体的な操作を頭の中で行えるようになったからかもしれません。数のまとまりを利用する方法を身につけたからかもしれません。
もちろん、計算結果を記憶することによって、指を使わなくなる場合もあります。
そこには異なる学習の過程があります。
数の理解における抽象化とは、具体的なものを使わなくさせることではなく、具体的なものがなくても数を扱える力を獲得することです。
指を使う計算には、その力を育てる過程で一定の役割があると考えられます。
小学1年生が指を使って計算しているとき、その児童は単に「まだ暗算ができない」のではなく、指という具体的な道具を使って数の関係を理解しようとしているのかもしれません。
指を使うかどうかだけでなく、指を使って、今どのように考えているのか。
その視点から見ると、普段の教室で見かける計算の姿も、少し違って見えてきます。
参考資料
- Frey, M. et al.(2024)You can count on your fingers: Finger-based intervention improves first-graders’ arithmetic learning. Journal of Experimental Child Psychology.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38714154/ - Krenger, M. & Thevenot, C.(2026)The role of children’s finger counting history on their addition skills. Developmental Psychology.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41264518/ - 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編』
https://www.mext.go.jp/content/20211102-mxt_kyoiku02-100002607_04.pdf